自治体キャリア通信をお届けしますVol.1(富山県)
地域の未来を支える職員のキャリアを語ろう・つなごう・育てよう~
「働くことの意味」や「自分のキャリア」を、立ち止まって考える時間はありますか。
公務員として日々を懸命に過ごす中で、「このままでいいのだろうか」と迷う瞬間は誰にでもあるのではないでしょうか。
現役時代、私は公務員人気の低迷や離職・病休の増加を目の当たりにし、人材育成の担当係長として職員がいきいきと働ける職場づくりを模索してきました。
中から変えることが難しいこともある。
そんな想いで外に飛び出し、研修講師として現場に関わる中で、先輩職員の仕事への向き合い方やキャリアの話を聴いた若手の目に、ふっと光がともる瞬間を見ました。
もしかすると、仕事の辛さばかりが強調されているのかもしれない。
大変な中にも公務員の魅力ややりがいを伝えることを忘れていたのでは。
そんな中、富山県で立ち上げられた「職員キャリア開発支援センター」は、職員一人ひとりの“キャリアの物語”を支える新たな試みとの出会い。
今回は、その中心で現場の声に耳を傾けてこられた荻布所長に立ち上げの想いや、公務員としてキャリアを積む魅力についてお話を伺いました。
富山県職員キャリア開発支援センター所長 荻布 彦(おぎの ひこし)さん
Q.まず始めに、若手職員と向き合う中で、どんなことをお感じになっていますか。
「そうですね。公務員を志して入ってくる方は、何らかの形で住民の方々の役に立ちたいという想いを胸に抱いていると感じています。」
Q.最近は、若者の離職や病気休職の増加が問題となっていますが、想いと現実にギャップがあるのでしょうか。
民間と公務員の大きな違いは、人事異動のスパンがとても短く、業務範囲が広いことだと感じています。広範な業務分野の中から自分が希望したピンポイントの業務につける確率は、非常に低くなるわけです。
例えば『富山県の魅力をPRしたい』と思う方が、真っ先にイメージするのが広報課だとしましょう。そういう方が、他の課に配属になったことで『ショックを受ける』ということが起こっていると思います。
Q.そのギャップを埋める方法はあるのでしょうか。
実際には、広報課でなくても観光や農林水産業・商工業の振興など、様々な分野で県のPRの仕事があります。どの部署でどんな仕事ができるのかを伝える仕組みが必要だと思っています。
異動についても同じことが言えます。例えば、富山県の事務職の場合は、一つ目の所属と二つ目の所属は、仕事内容が大きく異なる部署に異動することが多いんですね。色々な業務を積んで経験を積んでほしいわけですが、その意図が伝わらないと『自分はここで何のスキルが身につくんだろう』と悩み、立ち止まってしまう若手職員が多いのではないかと感じています。
ー荻布所長が常に“現場の声”に耳を傾けようとする姿勢や、職員一人ひとりの思いに寄り添いながら組織を見ていることが伝わってきます。
Q.その解決方法の一つがキャリア相談ということでしょうか。
そうですね。さらに言えば、上司と部下の面談のしくみを取り入れたいと思っています。そのためには、様々な部署の仕事の紹介や県職員として身に付けて欲しいスキル、OJTや研修の意味など「上司から部下に伝えて欲しいこと」の「ネタ集」のようなものをリスト化する準備も必要だと思います。
ー多忙な上司への配慮など、現場をよく知る荻布所長の現実的なまなざしがあります。
Q.管理職を目指す若い方が減っていると聞きます。管理職の魅力をどう伝えたいですか。
管理職になれば、所掌範囲が広くなります。幹部に近い立場だからこそ、直接、想いを伝えたり提案したりすることが可能になります。その結果、社会や組織のために実現したいこと=やりたいこと(Will)を形にしていくことができる。これが一番の魅力でしょう。県庁という職場を選んだ人たちは、やりたいことを持っていると思うんです。それをもう一度再認識してもらいたいなと思います。
日々の業務に忙殺されて、やりたいこと(Will)よりやらねばならないこと(Must)に追われる中で自分のWillを持ち続けることは結構難しいんですよね。
でも、管理職になれば、Willの実現に近づくことができると思っています。
ーここでも、職員の苦悩に寄り添いつつ、何とかその魅力を伝えたいやさしさが伝わってきます。所長の言葉には、「管理職の魅力」を語るその語調に、無理に勧めるような強さは感じられず“あなたにも可能性がある”と静かに背中を押すような温かさがあります。
部下を持つということは、若い人にとっては負担に感じるのかもしれません。実は、個人的な話ですが、私は係長職になってからも業務改革のプロジェクトに関わっていたので、部下なしの状態が長かったんです。初めて部下を持つことになったのが、課長補佐という職についた時、45歳ぐらいだったと思います。20~30人の部下の方と面談をする機会を得ました。その時は「部下の方たちの人生をも一緒に生きることができる」と、そんな想いに駆られたことを思い出します。
ー「人を育てる」ことを超えて、相手の人生に寄り添おうとする深いまなざしを感じる素敵な言葉です。
Q.―荻布所長が若い頃にみてきた景色と、今の若い方がみている景色は違うのでしょうか。
管理職層と若い方が話をする機会が少ないのかもしれません。私の場合、割と若い頃に管理職の方から「アイディア出しに一緒に付き合ってくれないか」と声をかけて頂いたことがあります。その方と相談をしながら、新たな組織の姿というのを作り上げていくという経験が、今思えばとてもプラスになったと思います。
今の若い方は、管理職や斜め上の上司とコミュニケーションを取る機会が随分減っているように感じています。管理職が「大変なオーダーを受けた」「やってられないよ」と口にする場面や苦労話ばかりが若い方に伝わってしまうと「管理職になるって厳しいんだな」「そんなに大変なら自分はやめておこう」と感じてしまうということが、少なからずあると思います。
管理職の方が、部下なり、あるいは斜め下の部下なりとどんな風に接しているか、自分の仕事の向き合う姿勢を伝えられているか、というところが大きいと感じます。
Q.管理職予備軍として優秀な職員はたくさんいるとお伺いしました。所長としては、何がブレーキになっていると感じますか。
「そうですね。一つには、ライフサイクルだと思います。生活にエネルギーを割かなければいけない時は誰にでも訪れるわけで、その時は、仕事に100%注ぐことは諦めようとなるのでしょうが、その後『一生このままでいいかな』と思ってしまう方がいると見ています。
能力も高くて、まだまだ力を発揮できるはずなのに『自分は管理職にはならなくていいんです』と決めてしまっている人がいると感じます。もう一つには、自分の能力にタガをはめてしまっている方もいると感じています。
ーその穏やかな口調の奥には、「もったいない」という想いが滲みます。
Q.「いつになったら子どもは大きくなるの?」と言われたことのある筆者としても耳が痛い話です。どんなアプローチができるのでしょうか。
そうですね。ライフイベントで一旦はキャリアアップから離れた方などについては、どこかのタイミングでそういう方を対象としたキャリア相談の機会があってもいいのかもしれません。
組織としても課題があると思います。これまでどちらかというと出世できる、一般的に『優秀』とされる方のイメージがあったと思います。すると、自分はイメージに合わないなって思うと降りるしかない。いわゆる単線型の人事の仕組みしかこれまではなかったわけです。
民間でいうスペシャリストのような制度を準備することも一つだと思います。今のところまずは、キャリア相談で相談者のキャリアを一緒に考えることで、対応できればと思っています。
ー確かに、キャリアに悩み揺れる時期は必ずあります。適切なタイミングで誰かに本音で悩みを相談できる機会があれば、「自分の本当にありたい姿」に出会える可能性は高いかもしれません。
Q.所長が考える若い人が憧れる『キラキラ管理職』のイメージ像はありますか。
やはり、仕事を通して自己実現している人だと思います。イノベーターかアーリーアダプターということになるのかもしれないです。
でもそうすると『その人だからできたんじゃないか』と取られてしまう危険もあって、そういう方(キラキラ管理職)が、どんな想いで、どう乗り越えてここまでできたのか『過程』を伝えることが大切なのかもしれません。
Q.伝え方を工夫されたことはありますか。
真面目な話、組織で仕事をしていく中で、上司の立場になると仕事のできる幅が違います。「一段役職を登ると、見晴らしが変わってやりたいことがぐっと現実味を帯びて広がるーその景色を見てみない? 」という感じで誘ったり。
ー荻布所長のユーモアとリアルな体験談。時折、笑いを交えながらも、そこにあるのは職員へのまっすぐな励ましだと感じます。
(キラキラ)管理職も山あり谷ありで乗り越えてきています。そんな情報を若い方にきちんと伝えてあげて、『自分と同じなんだ』という感覚を伝えていくことが大切だと思います。
Q.その方法としてはどんなことが考えられますか。
そうですね。あの人キラキラしてる管理職だなって思う人がいたら、その人のキャリアストーリーみたいなものをインタビューして庁内で共有することも、キャリア開発支援の一環としてやればよいのかなと思います。
Q.なるほど。所長がキャリア支援室を立ち上げられた背景を教えてください。
私自身、これまでキャリアを振り返る機会が何度かありました。たとえば、学生時代に理系から文系に転じたことや、就職の際に県庁を受けるかどうかで親と意見が対立したことなどです。
また、妻も県職員なのですが、若い頃は女性であるがゆえに、職場でやりづらさを感じる場面も多かったらしく、相談を受けることもありました。
県庁職員の長いキャリアの中で「自分はこの先、県庁の中でどうキャリアを積んでいくのか」を真剣に考えた時期もありました。ただ、その時間があったからこそ、今では自分が何をやりたいのか、何に面白さを感じているのか、どの方向を目指しているのかを説明できるようになったと思います。
キャリアを深く考える機会は、誰にとっても必要であり、人生を豊かにしてくれるものです。自分が後輩たちに残せるとすれば、そうした「キャリアを考える仕組み」そのものをつくることだと感じ、職員キャリア開発支援センター の設立に至りました。
ー自分の経験をもとに、「キャリアを考える機会の大切さ」を次の世代に伝え、残したいという熱い想いが伝わってきます。
Q.これまで感じている手応えや、今後の方向性を教えてください。
職員キャリア開発支援センターは、ちょうど良い時期に流れをつかんで開設できたと感じています。
私が役職定年である60歳を迎える年度に「人材育成基本方針」を策定することとなり、私自身、その構想づくりから関わることができました。上司にもキャリア支援に理解のある方がいて、想像以上にスムーズに組織化が進んだところがあります。
とはいえ、具体的な構想がはっきりしないままスタートし、ここまでメンバーのみんなと共に走りながら試行錯誤を重ねてきました。今後の課題としては、やはり冒頭でお話しした「上司と部下の面談」をしっかりと定着させたいと思っています。
現在、相談室には、外部相談員のほか、私を含めてキャリアコンサルタント資格を持つ職員が3名、資格は持たないものの相談対応を行っている職員が4名の計7名体制 です。
また、富山県には「庁内複業制度」があり、キャリアコンサルタント資格を持つ職員 なら、相談員として活動してもらうことも考えています。こうした仕組みを少しずつ整えながら、県庁全体でキャリア支援を広げていく段階にあります。
Q.どんな方に職員キャリア開発支援センターを使ってもらいたいですか。
まずは、「本当は相談したいけれど、勇気が出ない」という方にこそ来てほしいですね。漠然とした不安や悩みを抱えていても「うまく言葉にできないから」と相談をあきらめてしまう方が意外と多いんです。
むしろ、そういう方こそキャリア相談を通して少しずつ自分の思いや考えを整理していくことができる。そんな場所にしたいと思っています。
悩みが言葉にならない人を、そっと一歩後押しできるような仕組みを、これからつくっていきたいですね。
―最後に、職員のみなさんへ。
お話を伺っていて印象的だったのは、荻布所長が「キャリア」という言葉を、とても温かく、人間味のあるものとして語ってくださったことです。
どんな立場の人も、どんな時期の人も、自分の中に“物語”を持っている。
荻布所長が率いる職員キャリア開発支援センターは、その物語を安心して語れる場所であるーそんな確信を抱きました。
迷った時、立ち止まりたい時、誰かに聞いてもらいたい時。
そんな時こそ、職員キャリア開発支援センターのドアをノックしてみてほしいと思います。
「話すことで、自分の中の答えに出会える」—所長のお話を通して、私自身もそんな気づきを得ました。
職員一人ひとりが、自分の強みや思いを活かしながら、いきいきと働ける県庁を。
荻布所長のまなざしは、静かに、けれど確かに県庁の未来を見つめているように感じました。

